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リブ通信

2002年 春号


 モモちゃんの心に響いた勇気   桜井久仁子

 21世紀に入り、世界中で異常気象が続いている。今年も春が一足飛びにやってきたかと思うと、5月には梅雨のような雨模様の日々が初夏の行楽シーズンを遮っている。
 そんな中、春先から私の知人が若くして何人か亡くなった。残された家族は別離の悲しみを抱え今日を生きている。この死者との別れを思うとき、私は自分の父とのそれを思わずにいられない。
 父が娘にと願った思いを何一つ叶えることなく自由に生きてきた私にとって、早すぎた父の死は受け入れられない大きな現実だった。

 人は大切な人を失ったとき、時と共にその死を受け入れる心の作業を行う、これをモーニングワークと言うが、私は父の死に蓋をしたまま生きてきた。
 心理学を学んだ人間として、人の様々な心の動きを表す言葉は100以上も知っているが、現実の私はモーニングワークさえもままならないでいた。 そんな私がささやかながら父とのモーニングワークを終えたのは、祖母の死を迎えたときである。
 私の祖母は父の死後、少しずつ現実の時間を失っていった。そして、小さな子どもになって母に支えられながら最後を迎えた。その祖母が私に最後に教えてくれたのが父とのモーニングワークである。  祖母の死を受け入れながら、私は徐々に父の死もまた現実として受け入れていった。
 不思議なもので、祖母に導かれるように父の居場所が私の心に中に見つかった。これは私が頭一杯の学問的知識よりも、ひとつまみの現実の方がずっと重いことを改めて感じた一瞬である。

 実際、私自身も毎日現場でクライエントと向かいながら、その一分一秒を大切に生きている。本当は私がクライエントを助けるよりも、クライエントに教わることの方が多いのが現実かもしれない。 そのようなことを考えていたある日、ある少年が私に言った一言が私の胸に強く響いた。
 「僕は不登校になりたくないから学校に行く」そう、私を一心に見つめながら言った彼は、毎日ちょっとため息をつき、ちょっと肩を落として学校に行く。 その姿を心配そうに見つめる母親もまたちょっとため息をついて彼を学校へと送り出す。どちらも気の重い朝のひと時である。

 学校とのミスマッチを経験したこの少年にとって、社会とりわけ大人はどのような意味を持つのだろうか。  なすすべもないまま、両親はそんな無気力な息子に戸惑いながら、反面大事な息子の将来を案じ、苦しんでいる。  そのとき、私は彼の言葉を聞きながら「勇気ってなんだろう」と思ってしまった。  少し生真面目そうに、とつとつと語る彼の口調は淡々としていて、彼が味わった苦い経験をうかがい知ることはできないが、毎朝鎧兜を着て、それでも学校へ向かう彼の姿に私は心を大きく揺さぶられた。  本当の勇気はひょっとしたら当たり前のことを、毎日当たり前に続けていくことにあるのかもしれない。

 私は、彼が小さな体に大きな重荷を背負って、それでも「不登校になりたくない」と言って登校する姿からこのことを教わったような気がする。  そして今、この少年に人の温かみを教えてくれたのが、残念ながら私ではなく、同じように不登校を経験した少年である。2歳年上の彼は人と触れ合うことの楽しさをこの少年に教えてくれた。  この少年たちの姿を見ていると、私は人の出会いの不思議を思わずにはいられない。彼らとの出会いを通して私は、両親をいつもハラハラさせている二人の少年から小さな勇気を教えられた。  また、彼らの深い心のひだは、人の痛みや思いの深さを包み込む力があることも合わせて教えられたような気がする。

 こうした毎日の経験は、心理学が学問の上だけに終わらないでいることの大切さを私に語りかけてくる。  そして、父とのモーニングワークを終えた今、私はまた一つ生活に根ざした心理学を求める気持ちを一層強くした。それはきっと、父が私に願った最後の思いなのかもしれない。  その父の思いを受け止めている日々である。


 大検指導を通して   山本孝美

 リブで大検指導を始めて7年程になります。初めて教えた生徒は過敏性大腸炎のため高校を中退した16歳の少年でした。 引きこもっていた少年が桜井先生の指導の下、自分の目標を見つけ、わずか6ヵ月後には大検を受検できるまでになり、受けた5教科全て合格しました。 彼は中学校のときから不登校で、学校生活を取り戻すかのように毎日リブに通ってきました。でも、やってくるとすぐにノックをせずにドアを開けてしまいます。 当然、こちらが「こんにちは」と言っても返事は返ってきません。しばらく様子を見ていましたがいつまで経っても変化はありませんでした。

 そこで、まず「ドアをあけるときはノックをしてね」と言うと、毎回ノックをし、しばらくして挨拶もできるようになり、リブの他の子ども達ともコミュニケーションがとれるまでになりました。 このように大検指導では勉強面だけでなく生活全般に渡って指導しています。
 ある時、フリースクールを辞めた少年がリブにやってきました。大検を受けさせたいという保護者の依頼で、桜井先生が本人と面談し、次に来る時間を決めました。 でも、その時間が来ても彼は一向に姿を見せません。やっと2時間後にやってきたとき、全く悪びれた様子もなく、「遅れてすいません」の一言もありませんでした。  桜井先生が、遅刻をしたら“遅れてすいません”と言うように、と話をしている時、突然彼は「僕はここにカウンセリングを受けに来たんじゃない」と叫んで出て行き、それから二度とやってくることはありませんでした。
 しばらくして、あるフリースクールから数人の少年が桜井先生を訪ねてきました。その子ども達の話を聞いていて、考えさせられることがたくさんありました。

 たとえ今はできなくても、社会のルールを分かっていて人の話を聞くことが出来る人間であれば全く問題はないと思いますが、彼らは社会に出てまた現実とのギャップに悩むのかもしれません。 確かに学校だけが子どもの成長する場所ではなく、子どもを行かせたくない学校もあると思います。  でも、人間関係が希薄になっている今、学校以外の地域や家庭で社会教育のできる土壌を作れるかといえば疑問です。

 現場で子ども達の日々成長する姿や生の声を聞いていると、適切な時期に学校でたくさんの人に出会って子ども達が成長するのだと実感します。 だから、大検を受ける生徒にも大学で理解し合える良い友達をたくさん作って欲しいと思います。 これまで私は桜井先生の傍で、1つ1つ自信を取り戻していく子ども達や元気になっていくお母さんをたくさん見てきました。 桜井先生はいつも「人間の本来持っているものの出し方が変わるだけ」、と言いますが、大人も子どもも接し方によって本当に変わります。 そして、私はこれまでの指導の中で生徒が“おとなになったなあ”と感じる嬉しい言葉をたくさん聞く事ができました。これからのリブ通信で子ども達の生の声を伝えて行きたいと思います。


 アシスタントとして1年間学んだこと   今道優子

 4月。「アシスタントとして学んだこと・・・」というテーマを桜井先生から頂きました。  「ん~、何を書こう」と悩むよりも先に「リブ心理教育研究所で研修を始めて、まだ1年しか経っていないっけ?」と、手帳で確認し直してしまいました。困ったことに、ほんとに1年が経ったという実感が湧かないんです。  それくらい濃密な充実した1年でした。

   あれは3年前。大学での苦い経験から、問題解決の具体的方法を学びたい一心で河合伊六教授の元を訪れました。  大学院入学式後の教授との顔合わせの席で、「今道さん、河合ゼミに入ったのね。福山に頼もしいがお姉さまがいるから、安心ね。  よかったわね~」と心理学担当の教授が口々に言われたことを、私は今でも鮮明に覚えています。なぜ、先生方がそのように言われたのか、それは説明しなくても、皆さんきっとお分かりですよね。

 行動論は魅力的な学問でした。しかしそれ以上に、臨床経験豊富な桜井先生の力強い言葉に、私は何度、頭をガツ―ンガツーンと叩かれたことか、数え切れません。  次第に臨床の世界、桜井ワールドの魅力にとりつかれていく私がいました。私の前の世界が一気に広がっていったように思います。  大学で、「こころの成長を持ちましょう」という、非常に有名な、耳障りのいい心理学を学んできました。

   しかし、そのカウンセリングでは、実際に不登校で困っている子どもの状況は一向に変わらず、かえって重篤化してしまうといった現実を目の当たりにしました。  そんな現実を目の前にしているにもかかわらず、私が学んでいる“心理学”は何もできない・・・ そんな経験があるせいか、「子どもは、いいこと悪いことを含め、学校の中で成長していくもの。  学校に戻さないで子どもはどこで成長していくのか?ひきこもった子どもの将来について、カウンセラーは責任をとるべきではないか」といった桜井先生の言葉は、本当は当たり前のことなのに、とても衝撃的でした。  教育だけでなく社会問題にもなっている不登校やひきこもりの増加は、当事者とそれを取り巻く環境の問題だけでなく、専門家であるカウンセラーの問題なのかもしれないと真剣に考えてしまいました。  しかし、これは私の中にあった従来のカウンセリング観が音を立てて崩れ始める序章に過ぎなかったのです。

   LIB通信では、私が桜井先生のもとで、日々学んでいることや感じたことを書いていきたいと考えています。  私の手帳には、日々の臨床活動の中で子どもから学んだことや桜井先生から教わったことが書き連ねてあります。私は、財布を盗まれるよりも手帳を盗まれることのほうが辛いです。  手帳に込められた思い出や言葉は、私にとってかけがえのない宝物です。LIB通信では、私がアシスタントとして学んだことをお伝えしていきたいと思います。  これからどんな展開になるのか、私自身楽しみです。でも、桜井ワールド、臨床の世界は奥が深く、終章には永遠にたどり着けない気がしていますが、末永くお付き合いください。よろしくおねがいします。


 

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